Yoshitake Hashimoto

読書メモ 読書を繋ぐ 繋げる読書 交差する思想

ニック・ランドと新反動主義 木澤佐登志著

自由と民主主義は両立するのか、という近代政治思想的な問いがある。

もっと言うと、資本主義的な自由と平等主義的なリベラル民主主義は両立するのか、ということだと思う。

 

本書は、この平等主義的な民主主義に見切りをつけたリバタリアニズム新反動主義、加速主義といった一連の思想的な流れを追ったものである。

 

ニーチェの「永遠回帰」に影響を受けたシュペングラー(1880〜1936)は第一次世界大戦を受けて、「西洋は古代ローマ時代の反復に過ぎない。民族は大衆化し、その民主主義は資本に支配され、少数の指導者により戦争が起こるだろう。」と、著書『西洋の没落』で不吉な言葉を残している。

 

この『西洋の没落』による不吉な予言を受け、これを超克しようとしたニーチェ主義とリバタリアニズムが、アメリカのシリコンバレーで合流する。暗号通貨、ブロックチェーンなどの技術の誕生の思想的背景には、ニーチェ主義的リバタリアンな思想と、国家規制を退ける反体制的アナーキストな要素がある。

 

ニーチェは世俗社会における、国家、教会に属する人々を「畜群」と蔑んだ。そして「超人」こそが、堕落した世の中を変えるという。民主主義の否定である。ここに、個人の自己所有権を重んじ、国家機能を最小限に留めようとするリバタリアニズムと、1960年代カウンターカルチャー思想の流れを組む、暗号技術を駆使するサイファーパンク集団のアナーキーな思想が合流する。

本書で出てくる、ペイパル創業者のピーター・ティール、ソフトウェアエンジニアのカーティス・ヤーヴィン、哲学者ニック・ランドらがそうである。

ティールは「自由と民主主義は両立しない」という。

その主張を推し進めたヤーヴィンは「自由にとって民主主義は悪である」〈新反動主義〉という。

それらを受け継ぐニック・ランドは一連の思想を体系化し、テクノロジーの進化が社会や人間観のパラダイムシフトを促すという。〈加速主義〉

 

それは、国家が企業のようになり、CEOが一切の主権を行使、利潤を最大化する。

一方で、〈普遍主義〉いわゆる多文化主義リベラリズムヒューマニズム、平等思想、ポリティカルコレクトネス、人権など批判的な自己省察を欠いたイデオロギーに過ぎないと否定する。

資本主義の脱領土化(効率化、規制の撤廃、伝統主義の解体など)による自己運動やシンギュラリティ( AIの人工知能化)を行けるところまで推し進めることによって、人間の自由は何ものにも侵害されず達成できると。

 

相互バランスを保っていた19世紀の西洋由来の近代的価値観、「自由」「平等」「個人」「国家」。

それが現代、相互に自律性をもち相容れなくなっている。

 

このニック・ランドの加速主義は、今の国際情勢、トランプ現象、中国の中央集権的資本主義政策、テクノ資本主義に奇妙にシンクロしてみえる。

突き詰めれば、要は経済的自由が成就すれば、政治的自由はシンギュラリティによる見えない独裁者が何とかしてあげますよ、的なことでしょうか。

 

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