目からウロコが落ちる奇跡の経済教室(基礎知識編) 中野剛志著
現代貨幣理論(MMT)について理解のために読んだ。
経済ナショナリズム論で著名な著者による、まさに目からウロコが落ちる経済学入門でもあるが、現代貨幣理論の貨幣について定義が非常に興味深い。
それは、「通貨の価値を裏付けるものとは、租税を徴収する国家権力である」 だそうだ。
このことは、奇しくも以前取り上げた『カネと暴力の系譜学 萱野稔人著』の中で、萱野が言及していたドゥルーズ=ガタリの貨幣起源説を思い起こす。
それは、貨幣を生み出したのは国家による徴税権だ、と同様の主張だ。
また本書では、貨幣についての通説を再考させられる。
それは、貨幣を「負債」の一種とみなす「信用貨幣論」で、金本位制などに価値を裏付けられた、いわゆる貨幣の希少性を主張する「商品貨幣論」とは全く逆転した認識である。
それは、マイニングと呼ばれる技術で希少性を担保する仮想通貨、ビットコインに対する認識も改めることになる。
おそらく貨幣についての学問的研究はマルクス経済学による成果なのだと思うのだが(そもそも主流派経済学で貨幣定義について取り扱わないそうだ)、そこでも貨幣についての認識は、「物々交換から貨幣が生まれた」という認識だろう。
しかし、歴史学、人類学はそのような証拠資料を発見するどころか、古代エジプトやメソポタミア文明では、臣下や従属民の労働力の徴収と財の再分配のため、債権債務の計算のために貨幣が利用されていたという。
それは萱野が主張した、国家権力が貨幣を生み出したとの貨幣起源説と符合する。
以下、巻末のまとめを抜粋。
根本定義、そしてボタンの掛け違えが如何に喜悲劇を生むか肝に免じなければ…
(1) 平成の日本経済が成長しなくなった最大の理由は、デフレ。
(2) デフレとは「需要不足/供給過剰」が持続する状態。
インフレとは「需要過剰/供給不足」が持続する状態。
①インフレ対策
金融引き締め
生産性の向上、競争力強化(規制緩
和、 自由化、民営化、グローバル化)
②デフレ対策
金融緩和
産業保護、労働者保護(規制強化、国
有化、グローバル化の抑制)
(3) 新自由主義は、本来、インフレ対策のイデオロギー。デフレ対策のイデオロギーは、民主社会主義。
(4) 平成日本は、デフレ下にあったのに、新自由主義のイデオロギーを信じ、インフレ対策をやり続けた。その結果、デフレから脱却できず、経済成長できなくなった。
(5) 貨幣とは、負債の特殊な形式(「信用貨幣論」)
(6) 貨幣には、現金通貨と預金通貨がある。
預金を創造するのは銀行である。
預金は、銀行が貸し出し行うと創造される(信用創造)のであって、銀行が預金を集めて貸出すのではない。ただし、借り手の返済能力の制約は受ける。
借り手の資金需要が、銀行による貨幣(預金)の創造を可能にする。
(7) 「現代貨幣理論」のポイント
まず、国家は国民に対して納税義務を課し、「通貨」を納税手段とすることを法令で決める。
すると、国民は、国家に通貨を支払うことで、納税義務を履行できる。
その結果、通貨は、「国家に課せられた納税義務を解消することができる」という価値をもつ。
その価値ゆえに、通貨は国民に受け入れられ、財・サービスの取引や貯蓄など、納税以下の目的に於いても広く利用できる。
(8) 量的緩和では、貨幣供給量は増えない。貨幣供給量を増やすのは、借り手の資金需要である。
デフレ下で貨幣供給量を増やすためには、政府が資金需要を拡大するしかない。(財政出動)
財政出動こそ、貨幣供給量を操作する金融政策である。
(9) 財政に関する正しい理解(「機能的財政論」)
①民間金融資産は、国債発行の制約とはなら
ない。
財政赤字は、それと同額の民間貯蓄(預金
)を生み出す。
②政府は、自国通貨発行権を有するので、自
理論上あり得ないし、歴史上も例がない。
政府は、企業や家計とは異なる。
など)は、財政危機とは無関係。
④財政赤字の大小を判断するための基準は、
インフレ率である。
インフレが過剰になれば、財政赤字は縮小
する必要がある。
デフレであるということは、平成日本の財
政赤字は少な過ぎるということ。
⑤税は、財源確保の手段ではない。
税は、物価調整や所得再分配など、経済全
体を調整する手段。
(10) 財政赤字を拡大しても、それだけでは金利は上昇しない。
デフレを脱却すれば金利は上昇するが、それはむしろ正常な状態。
(11) 国内民間部門の収支+国内政府部門+海外部門の収支=0
国内政府部門の赤字は、「国内民間部門+海外部門」の黒字を意味する。
バブル期に政府債務が減ったのは、民間債務の過剰の裏返しである。
(12) 税収=税率×国民所得。
政府は税率を自在に上げられるが、国民所得は景気次第なので、税収を思い通りにできない。
歳出削減や増税はむしろ景気を悪化させるので、税収を増やすことには失敗する。
財政健全化は、やっても無駄であるし、デフレ下では、むしろやってはならない。
(13) 財政政策の目的は、「財政の健全化」ではなく、デフレ脱却など「経済の健全化」でなければならない。
(14) 自由貿易が経済成長をもたらすとは限らないし、保護貿易の下で貿易が拡大することもある。
グローバリゼーションは避けられない歴史の流れなどでなく、国家政策により抑制できる。
戦後日本の輸出依存度は、10〜15%程度。日本は内需大国であって、貿易立国ではない。
(15) 主流派経済学は、過去30年間で、進歩するのではなく、退歩した。
主流派経済学者は、一般均衡理論という、信用貨幣を想定していない非現実的な理論を信じている閉鎖的な集団の一員である。
デフレ脱却のための対策は(2)の②である。